合同会社ホームシックデザイン代表・クリエイティブディレクター
清水 真介さん
教育学部 卒業
- Q1
- 清水さんが岩手大学への進学を決めた理由を教えてください。
高校時代の恩師である清武英司先生の存在が、岩手大学進学の大きなきっかけでした。清武先生は岩手大学で彫刻を学ばれた方で、私が所属していた美術部の顧問でした。美術の基礎はほとんど先生から教わりました。
もともと幼い頃からものづくりは好きでしたが、それは自分のために作るという感覚でした。転機となったのは高校2年生のときです。美術展で賞をいただき、県代表として全国大会に出場する機会を得ました。自分の作品が認められる経験を通じて、「こういう仕事もあるのかもしれない」と、美術や創作を進路の選択肢として考えるようになりました。
ただ、美大や芸大を目指す人たちに比べると、本格的な受験準備を始めた時期は遅くなりました。また、私は4人きょうだいの家庭で育ったので、経済的な事情からも国立大学への進学が現実的な選択でした。その中で、特定の分野に限定されず、幅広く美術を学べること、そして国立大学として学費面の安心感があったことから岩手大学を選びました。東北の国立大学の中でも、美術やデザインを学ぶ環境が充実していたことも大きな魅力でした。
もともと幼い頃からものづくりは好きでしたが、それは自分のために作るという感覚でした。転機となったのは高校2年生のときです。美術展で賞をいただき、県代表として全国大会に出場する機会を得ました。自分の作品が認められる経験を通じて、「こういう仕事もあるのかもしれない」と、美術や創作を進路の選択肢として考えるようになりました。
ただ、美大や芸大を目指す人たちに比べると、本格的な受験準備を始めた時期は遅くなりました。また、私は4人きょうだいの家庭で育ったので、経済的な事情からも国立大学への進学が現実的な選択でした。その中で、特定の分野に限定されず、幅広く美術を学べること、そして国立大学として学費面の安心感があったことから岩手大学を選びました。東北の国立大学の中でも、美術やデザインを学ぶ環境が充実していたことも大きな魅力でした。

- Q2
- 岩手大学での学びや経験の中で、現在のクリエイティブ活動やお仕事の土台となっているものは何でしょうか。
現在の仕事に大きな影響を与えているのは、実は教育学部で学んだことです。
私が所属していた芸術文化課程では教員免許の取得は必須ではありませんでしたが、せっかくならと思い必要な授業を履修し、教員免許を取得しました。しかし教育実習を経験する中で、「教えることはとても難しい」「自分は教員には向いていない」と感じ、教職以外の道へ進むことを決めました。
ところが、会社を立ち上げて組織を運営するようになると、大学で学んだ教育学や発達心理学、人を育てるための環境づくりの考え方が驚くほど役立っていることに気づきました。
経営を学び始めると、財務や事業計画よりも、人を育てることや組織をつくることの方が自分の強みだと感じました。社員に技術や考え方を伝え、同じ目標に向かって取り組める環境を整えることは、まさに教育そのものです。
働く人のモチベーションをどう高めるか、その人の能力をどう引き出すか、大人数に対してどのように考えを伝えるか。こうしたことは教育学と深くつながっています。今では、教育学部で学んだ経験が経営者としての自分を支えていると感じています。
そのため、教育学部で学んだ学生には、教員になる以外にも多様な可能性があることを伝えたいと思います。経営者という道も、その一つです。
私が所属していた芸術文化課程では教員免許の取得は必須ではありませんでしたが、せっかくならと思い必要な授業を履修し、教員免許を取得しました。しかし教育実習を経験する中で、「教えることはとても難しい」「自分は教員には向いていない」と感じ、教職以外の道へ進むことを決めました。
ところが、会社を立ち上げて組織を運営するようになると、大学で学んだ教育学や発達心理学、人を育てるための環境づくりの考え方が驚くほど役立っていることに気づきました。
経営を学び始めると、財務や事業計画よりも、人を育てることや組織をつくることの方が自分の強みだと感じました。社員に技術や考え方を伝え、同じ目標に向かって取り組める環境を整えることは、まさに教育そのものです。
働く人のモチベーションをどう高めるか、その人の能力をどう引き出すか、大人数に対してどのように考えを伝えるか。こうしたことは教育学と深くつながっています。今では、教育学部で学んだ経験が経営者としての自分を支えていると感じています。
そのため、教育学部で学んだ学生には、教員になる以外にも多様な可能性があることを伝えたいと思います。経営者という道も、その一つです。
- Q3
- 清水さんには2025年10月に本学で開催した「岩手大学ホームカミングデイ2025」でご講演をいただきました。その際のご講演タイトルには、『この地を開墾する』という表現があり、印象的でした。地方におけるクリエイティブの役割について、どのようにお考えでしょうか。
私たちの会社のミッションは、「創造性ある産業と文化のために、この地を開墾する」です。
私が岩手でデザインの仕事を始めようとした頃、先輩方からは「ここには若い人向けの仕事はないから都市部へ行った方がいい」という話をよく聞きました。実際に仕事を始めてみると、その理由も理解できました。地方ではデザインや企画といった頭脳労働に対する評価が非常に低く、報酬も都市部と比べて大きな差がありました。考えることそのものに対価を支払うという文化が十分に根付いていないのだと思います。
そこで私は、この状況を変えたいと思いました。荒れた土地を耕し、新しい価値が育つ土壌をつくる。そのイメージが「開墾」という言葉につながっています。
現在はロゴやパンフレットを制作するだけではなく、企業や組織の経営課題に踏み込んだ提案を行っています。地域にはクリエイティブの力を必要としている企業がたくさんありますが、その重要性に気づく余裕がない経営者も少なくありません。
だからこそ、私たちは経営そのものが良くなるための支援を重視しています。クリエイティブとは見た目を整えるためのものではなく、組織や地域をより良くするための手段だと考えています。それが私にとっての「開墾」です。
私が岩手でデザインの仕事を始めようとした頃、先輩方からは「ここには若い人向けの仕事はないから都市部へ行った方がいい」という話をよく聞きました。実際に仕事を始めてみると、その理由も理解できました。地方ではデザインや企画といった頭脳労働に対する評価が非常に低く、報酬も都市部と比べて大きな差がありました。考えることそのものに対価を支払うという文化が十分に根付いていないのだと思います。
そこで私は、この状況を変えたいと思いました。荒れた土地を耕し、新しい価値が育つ土壌をつくる。そのイメージが「開墾」という言葉につながっています。
現在はロゴやパンフレットを制作するだけではなく、企業や組織の経営課題に踏み込んだ提案を行っています。地域にはクリエイティブの力を必要としている企業がたくさんありますが、その重要性に気づく余裕がない経営者も少なくありません。
だからこそ、私たちは経営そのものが良くなるための支援を重視しています。クリエイティブとは見た目を整えるためのものではなく、組織や地域をより良くするための手段だと考えています。それが私にとっての「開墾」です。

2025年10月に本学で開催した「岩手大学ホームカミングデイ2025」での講演の様子
- Q4
- これまで、お仕事をするなかで、多くの選択や分岐点があったと思いますが、意思決定の際に大切にしてきた軸や価値観はどのようなものですか。
仕事における判断基準の一つは、文化的な価値をどう未来へつないでいくかという視点です。
その象徴的な取り組みが「Cyg art gallery」(注)です。経営だけを考えれば、決して効率の良い事業ではありません。しかし私の中では、アート、クラフト、デザイン、そして経済活動はすべて連続したグラデーションとしてつながっています。
その一部を切り離して「不要だ」と言うことはできません。もしアートが不要だと言えば、自分たちが持っている技術や創造性そのものを否定することにもなってしまうからです。
一方で、ただ維持するためだけに文化を延命させることには賛成ではありません。文化が今の社会や経済の中でどう生きるのかを考え続けることが大切です。
変えるべきものは変える。守るべきものは守る。そのバランスを取りながら、新しい形で未来へつないでいくことが重要だと思っています。
また、私は人を信じることを大切にしています。組織は一人では成り立ちません。たとえ結果が思い通りにならなかったとしても、誰かと一緒に取り組んだ時間や経験は消えません。その積み重ねが次につながると考えています。
(注)合同会社ホームシックデザインが盛岡市内で運営するアートギャラリー。東北の作家に焦点を当てた企画展を行う。
その象徴的な取り組みが「Cyg art gallery」(注)です。経営だけを考えれば、決して効率の良い事業ではありません。しかし私の中では、アート、クラフト、デザイン、そして経済活動はすべて連続したグラデーションとしてつながっています。
その一部を切り離して「不要だ」と言うことはできません。もしアートが不要だと言えば、自分たちが持っている技術や創造性そのものを否定することにもなってしまうからです。
一方で、ただ維持するためだけに文化を延命させることには賛成ではありません。文化が今の社会や経済の中でどう生きるのかを考え続けることが大切です。
変えるべきものは変える。守るべきものは守る。そのバランスを取りながら、新しい形で未来へつないでいくことが重要だと思っています。
また、私は人を信じることを大切にしています。組織は一人では成り立ちません。たとえ結果が思い通りにならなかったとしても、誰かと一緒に取り組んだ時間や経験は消えません。その積み重ねが次につながると考えています。
(注)合同会社ホームシックデザインが盛岡市内で運営するアートギャラリー。東北の作家に焦点を当てた企画展を行う。
- Q5
- 起業当初と現在とで、地域との関わり方や期待される役割はどのように変化してきたと感じていますか。
創業当初は、小さな喫茶店の開業や個人での起業、新しいイベントづくりなど、地域で芽吹こうとしている挑戦を支える仕事が中心でした。
しかし今では組織も24人規模となり、老舗企業や大規模な組織との仕事も増えています。東北エリアの中でも比較的大きなクリエイティブ組織になったことで、地域から期待される役割も変わってきました。発言や行動が周囲に与える影響は以前より大きくなり、地域の対話の場で意見を求められる機会も増えています。だからこそ、薄っぺらいことは言えないという責任を感じています。
私は基本的に、自分のやりたいことを優先するというより、「あなたにお願いしたい」と依頼されたことに真摯に応えたいというスタンスです。その一方で、現状に疑問を投げかけることや、時には厳しい提言をすることも必要だと感じています。
しかし今では組織も24人規模となり、老舗企業や大規模な組織との仕事も増えています。東北エリアの中でも比較的大きなクリエイティブ組織になったことで、地域から期待される役割も変わってきました。発言や行動が周囲に与える影響は以前より大きくなり、地域の対話の場で意見を求められる機会も増えています。だからこそ、薄っぺらいことは言えないという責任を感じています。
私は基本的に、自分のやりたいことを優先するというより、「あなたにお願いしたい」と依頼されたことに真摯に応えたいというスタンスです。その一方で、現状に疑問を投げかけることや、時には厳しい提言をすることも必要だと感じています。
- Q6
- これからの時代において、岩手大学で学ぶ学生が地域や社会に価値を生み出すために、今のうちに培っておくべき力や姿勢は何だと思われますか。
これからの時代を生きる学生には、「恐れない力」を身につけてほしいと思います。
最近の学生を見ていると、すぐに答えを求める傾向を感じることがあります。しかし社会には、すぐに答えが出ない問題が数多くあります。そうした曖昧な状態に耐えながら考え続ける力、いわゆるネガティブ・ケイパビリティが重要です。
その力を身につけるには、自分で企画を立てて実践してみることが大切です。小さな展示会でもイベントでも構いません。自分で何かを始めると、予想していなかった出来事が次々に起きます。そのときに、「思い通りにならないこともある」と受け止めながら前に進む経験が大きな学びになります。
アートには正解がありません。完成を決めるのも自分です。だからこそ、不確実な状況の中で試行錯誤し続ける力が養われます。若いうちに多くの人と出会い、対話し、答えのない問いに向き合う経験を重ねてほしいと思います。
最近の学生を見ていると、すぐに答えを求める傾向を感じることがあります。しかし社会には、すぐに答えが出ない問題が数多くあります。そうした曖昧な状態に耐えながら考え続ける力、いわゆるネガティブ・ケイパビリティが重要です。
その力を身につけるには、自分で企画を立てて実践してみることが大切です。小さな展示会でもイベントでも構いません。自分で何かを始めると、予想していなかった出来事が次々に起きます。そのときに、「思い通りにならないこともある」と受け止めながら前に進む経験が大きな学びになります。
アートには正解がありません。完成を決めるのも自分です。だからこそ、不確実な状況の中で試行錯誤し続ける力が養われます。若いうちに多くの人と出会い、対話し、答えのない問いに向き合う経験を重ねてほしいと思います。
- Q7
- 岩手大学は2029年に創立80周年を迎えます。この節目に向けて、岩手大学へのメッセージをお願いできますでしょうか。
私は大学と大学院を合わせて6年間、岩手大学で学びました。在学中は足りないものばかりに目が向いていましたが、卒業して時間が経った今、実は多くのものを与えられていたことに気づいています。多様な人がいて、多様な活動があり、広々とした環境がある。その価値は当時の自分には十分見えていなかったのだと思います。
2029年に創立80周年を迎える岩手大学には、その包容力のある風土を大切にしながら、これからどのような岩手や東北の未来をつくっていくのかを、もっと発信してほしいと思います。岩手大学がつくりたい未来像は、必ずしも一つの方向にまとまる必要はありません。学部や研究室、教職員や学生、関係者それぞれが異なる未来像を語ってもいいと思います。さまざまな声が大学から聞こえてくること自体が大学の魅力になるのではないでしょうか。
80周年が成功すれば、その先の100周年はもっと楽しみになるはずです。私自身も卒業生として、岩手大学とともに地域の未来について考え、できることがあれば力を尽くしたいと思っています。
2029年に創立80周年を迎える岩手大学には、その包容力のある風土を大切にしながら、これからどのような岩手や東北の未来をつくっていくのかを、もっと発信してほしいと思います。岩手大学がつくりたい未来像は、必ずしも一つの方向にまとまる必要はありません。学部や研究室、教職員や学生、関係者それぞれが異なる未来像を語ってもいいと思います。さまざまな声が大学から聞こえてくること自体が大学の魅力になるのではないでしょうか。
80周年が成功すれば、その先の100周年はもっと楽しみになるはずです。私自身も卒業生として、岩手大学とともに地域の未来について考え、できることがあれば力を尽くしたいと思っています。

2026年6月22日、ホームシックデザインが入居するパルクアベニュー・カワトク cube-II 地下1階「学びの広場」(盛岡市)にて収録